研究内容
“最先端”にとらわれない発想で、技術の民主化と、イノベーションが生まれる環境づくりを推進。
もともとは半導体の研究者であり、要素技術だけでなく、それをどう社会実装していくのかに興味があるという秋田純一教授。半導体の最先端の競争が進むなか、“最先端”にとらわれない発想で、技術の民主化の実践と、イノベーションが生まれる環境づくりを進めています。

原点は「電子工作少年」
エンジニアだった父の影響で、小学生の頃からラジオなどの電子工作に夢中になり、最初は父に連れられ、やがてひとりで“名古屋の秋葉原”といわれる大須商店街に通うようになりました。
大学では半導体の回路設計の研究を行う傍ら、電子工作のパーツを求めて秋葉原に足繁く通いました。今も東京に出張するときは必ず秋葉原を訪れています。観光地化した秋葉原に偏見を抱く人もいますが、本質は電気街のまま。しかもコアな人だけでなく、面白いアイデアを持った一般の人にも客層が広がっています。
半導体の設計ができて電子工作もできる研究者
自分が設計した半導体が秋葉原の店頭に並び、人々に使われるようになるまでが半導体研究者の役割だと私は考えています。しかし現状は、作り手と使い手は解離しています。それはひとつに、技術が進歩し過ぎて、アイデアがあってもそれを実証するために桁違いの資金と組織力が必要になるためです。また、先端技術の追求が目的になってしまうと、「それで何をするの?」というミスマッチに陥ることもあります。
こうした実情に嫌気がさし、半導体からユーザーインタフェースの研究にシフトした時期もありましたが、半導体の設計ができて、電子工作もできることが自分のアイデンティティだと思い直し、今は最先端にこだわらず、作り手と使い手をつなぐというスタンスで研究を進めています。

「枯れた技術」に光を当てる
先端技術でないなら、たいしたことはできないのではと思うかもしれません。しかし半導体に関してはそうではない面があります。たとえばスマホのタッチパネルは、古くからあった基本技術を現代のニーズと合致させ、優れたインタフェースとして昇華したものです。
マイクロソフトが発売したKinectは、身体の動きでゲーム機を操作するデバイスで、安価なこともあって研究者が飛びつき、以降ジェスチャーを取り入れたインタフェースの開発が進みました。こちらも最新技術は使っていません。お金のかかる最新技術を使わずとも、昔からある「枯れた技術」の使い方を考えることで、パラダイムが変わることがあるのです。
イノベーションを、「技術の民主化」から
研究活動を通じて一貫して伝えたいことは、ものづくりは誰にでもできる、誰でもやっていいということです。個人の自由な発想はイノベーションの種です。ソニーのウォークマンのように、売ることを考えずに作ったものが大ヒットした事例は、世の中にいくつも見つかります。
近年は、個人や小さな企業のものづくりを後押しする、メイカームーブメントと呼ばれる世界的な潮流が起こっています。その中心には、3Dプリンタの普及に代表される「技術の民主化」の動きがあります。技術が専門家の手から市民の手に戻れば、市民がいろんな課題を自分たちで解決できるようになるでしょう。既存のIoTシステムは高価で導入できない小さな農家が、自分で部品を買い、センサーを作って、サーバを立てて…といった未来も想像できます。もちろんそこに至るまでは、技術の普及、コミュニティづくり、使い方の提案など、さまざまな取り組みが必要です。ありたい姿に一歩でも近づくための環境づくりと実践を進めているところです。
無理と言われていることに挑戦するのが研究者
技術の民主化に関しては、数年前に米Googleが半導体の設計の民主化を打ち出し、日本の研究者もこれに刺激されています。私自身がこれから挑戦したいのは、半導体の製造の民主化です。半導体はクリーンルームで作るもので、個人で作るのは無理というのが常識。本来は0か1かの世界です。そこを、0.01のものでもいいから作りたい。“ない”と”ある”ではまったく違うんです。
無理だといわれることに挑戦するのが研究者だとも思っています。失敗も成功も、貴重な知見として後進に残せますから。
