研究内容
子どもたちの明るい未来のために
私たちはASDの特性を「個性」として捉え、未来を担う子どもたちが健康で安全に、そして安心して暮らせる社会を築くことを目標としています。これにより、うつ病などの二次障害を予防し、すべての子どもたちがその可能性を最大限に発揮できる社会を実現したいと考えています。

1. 自閉スペクトラム症の原因候補遺伝子の機能解析
近年、ASDのある方を対象に行った大規模なゲノム解析によって、クロマチンリモデリング因子CHD8が最も有力な自閉症原因候補遺伝子として特定され、世界中で大きな反響を呼んでいます。
私たちは、ASDと診断されたヒトのCHD8変異を再現したモデルマウスを作製し、行動解析を行った結果、このマウスがASDの行動異常を再現することを確認しました [Nature 537: 675 (2016)]。
これにより、私たちはASDの発症時期、責任部位、責任細胞種を特定するとともに、ASDの発症メカニズムを解明し、これらのモデルマウスを用いて新しい疾患治療法の確立を目指します。

2. クロマチンリモデリングによる老化とがんの制御機構
組織幹細胞の老化は、がんや神経変性疾患などの加齢関連疾患の発症に深く関与しています。近年の研究により、老化した組織幹細胞の機能を回復させることで、これらの疾患を治療できる可能性が示唆されています。
私たちは、クロマチンリモデリング因子CHD8ががん抑制タンパク質p53に結合し、その機能を抑制することで、発生期の器官形成に重要な役割を果たしていることを発見しました [Nature Cell Biol. 11: 172 (2009)]。
現在、CHD8による老化制御メカニズムの全貌を解明するとともに、がんや神経変性疾患などの加齢関連疾患におけるこのシステムの関与を明らかにし、「組織幹細胞の若返りによる疾患治療」の実現を目指しています。

3. 精子形成と男性不妊症のメカニズム解明
日本を含む先進国では、15%のカップルが不妊に悩んでおり、その原因の半数が男性側にあります。男性不妊症の主な原因は、精子が作られる過程(精子形成)の障害ですが、その機序が解明されたものは多くありません。
近年、生殖補助技術の進歩により、精巣から精子が回収できれば、顕微授精によって子どもを授かることが可能になりましたが、最終的に子どもが生まれる確率は、依然として低いままです。
私たちは、精巣全体を三次元で解析できる新しいツールを開発し、精巣は均一な器官ではなく、精子形成能に空間的な「偏り」があることを明らかにしました。このツールを用いて、精子形成障害の発症メカニズムを解明し、自然妊娠を可能にする治療法の確立を目指しています。
