研究内容
「起き上がると痛い」「座ると辛い」 グラビティMRIで、重力が身体に及ぼす影響を評価。
MRI検査は、強い磁石と電波によって身体内部の情報を画像化する検査です。大野直樹准教授らの研究チームは、重力の影響を受けて生じる疾病や体内各所の変化を捉える独自のMRI装置を開発。病気診断やQOL維持、健康促進など、さまざまなかたちで社会還元につながる研究を行っています。

世界に1台の「グラビティMRI」
人間は地球上にいる限り重力(グラビティ)の影響を受けますが、その影響は姿勢によって異なります。たとえば寝た状態から起き上がると、心臓や肝臓など臓器の機能や、関節や腰、筋肉への負荷の度合いは変化します。従来のMRIは構造上、ベッドの上で仰向けに寝た姿勢で撮像することがほとんどで、重力の影響についてはあまり検討されてきませんでした。
医療の現場でも、腰痛の患者さんであれば大半は「座ると痛い」と訴えますが、実際には痛みの少ない寝た状態でしか検査ができません。こうしたギャップを埋めるべく私たちが開発したのが、立つ、座るなど任意の姿勢で撮像ができるグラビティMRIです。

重力が脳内の“水の動き”に及ぼす影響を評価
私たちはグラビティMRIを使ってさまざまな測定を行い、重力が身体に及ぼす影響や、人間に備わっている、体内の状態を一定に保つ環境恒常性を評価しています。特に体内の水分子の動きを捉えて画像化するMRIの特徴を活かし、ヒトが姿勢を変えると脳に対する重力の作用が変化し、それに伴って脳内の水の動きも変化することを明らかにしています。
この研究成果は、治療できる認知症として知られる特発性正常圧水頭症の診断に役立つと期待されています。また脳内の水の動きは脳の老廃物を除去する役割を担っていることから、アルツハイマー病のメカニズムの解明にも貢献できると考えています。

病気の診断に、健康づくりに
脳神経領域以外では、金沢大学附属病院の整形外科と連携し、グラビティMRIを使用して変形性膝関節症の評価を行う取り組みを進めています。変形性膝関節症は、関節のクッションである軟骨がすり減って痛みが生じる病気で、進行すると健康寿命に影響します。私たちは世界初の試みとして、患者さんが立って痛みが生じている状態で、この病気の進行度を評価しました。現在は実際の診断への応用に向けてデータを収集しているところです。
健康や美容をテーマに産学連携にも取り組んでいます。寝具メーカーの西川との共同研究では、腰への負担が軽減される正しい姿勢を維持するクッションを開発しました。「重力に負けない」という発想で、女性下着メーカーとの共同研究も始まっています。

研究と教育は、未来への投資
私は大学3年次まで勉強が嫌いでした。答えがある問いを解くことに興味を持てなかったのです。しかし卒業研究に取り組むようになると、未知の領域を探り、新しい知見を導き出す面白さに夢中になり、研究者の道に進むことを決めました。自分の経験から、学生に研究の面白さを知ってほしい、夢を持ってほしいとの思いがあります。
近年、日本の研究力の低下が指摘されています。私自身、国際会議に参加すると、科学技術立国としての日本の存在感が低下しているのを感じます。個人研究費の不足はその要因のひとつです。iDonateを通じて、多くの方に「未来への投資」としての寄付に関心を持っていただければ嬉しいです。