研究内容
核医学の力で医療の未来を切り拓く
私たちは、核医学検査法を通じて、実験動物を用いた前臨床研究と人の臨床におけるトランスレーショナル研究の実践を目指しています。さらに、核医学と放射線生物学や栄養機能学、より非侵襲的な近赤外線・磁気共鳴・超音波イメージング法を融合させて、新たなイメージング法やがん治療法の創出を目標としています。
現在、以下の研究テーマに取り組んでいます。
1.がん細胞の栄養素に着目した新規核医学画像診断薬と治療薬(ラジオセラノスティクス)の開発
私たちは金沢大学保健学類の川井研究室とともに、アミノ酸、グルコース、脂肪酸などの栄養素に着目した核医学画像診断薬を開発してきました 。
これらの画像診断薬を応用し、がん細胞だけに放射線を照射し、正常組織に影響を与えにくい核医学治療薬の開発(ラジオセラノスティクス:診断と治療を一体化する手法)にも取り組んでいます。
今後は、栄養素のみならず、様々な薬物送達技術を用いたラジオセラノスティクス研究に着手していきたいと考えています。
2.薬物トランスポーターや薬物代謝に着目した核医学画像診断法による薬物効果判定法の開発
市販の放射性医薬品や既存の核医学画像診断薬は、体内で薬物を細胞内に輸送する薬物トランスポーターの効果により、がん細胞などに取り込まれるとともに、細胞排泄がされることを見出しました 。また、肝臓の薬物代謝酵素により代謝を受けることも確認してきました 。
この薬物トランスポーターや肝臓の薬物代謝酵素の発現量により、抗がん剤や分子標的薬といった薬物療法の治療効果が変化すると報告され、これらの治療効果を薬物投与前に予測する核医学画像診断薬を新たに開発しています。
3.放射線内照射(核医学治療法)と放射線外照射のがん治療効果増強法の開発
放射線内照射(核医学治療法)に使われているNa131Iを用いた甲状腺がん治療と、131I-MIBGを用いた神経芽腫の治療において、これらの治療薬剤の治療効果を増強する手法(核医学画像診断薬及び核医学治療薬の体内動態制御法)を開発してきました 。
現在は、分子標的薬や食品成分等との組み合わせにより、放射線内照射と放射線外照射の放射線治療効果を増強する手法の開発にも取り組んでいます。
4.放射線治療におけるアブスコパル効果の研究
放射線治療におけるアブスコパル効果とは、放射線照射範囲外のがんの縮小効果が認められる稀な現象です。当研究室では、2023年度に新たに立ち上げた研究内容として、アブスコパル効果発生率を増加する手法の開発に取り組んでいます。
放射線治療によりがん細胞が殺傷されると、障害関連分子パターン (DAMPs)が放出され、体内の樹状細胞(白血球細胞の一種)が活性化します。放射線効果により死亡した細胞は、活性化した樹状細胞に貪食され、がん抗原となります。そのがん抗原が樹状細胞から提示され、体内の細胞障害性T細胞が活性化することでアブスコパル効果を引き起こすと言われています。